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ももさんと初めてのお見合いをした日
僕は緊張した面持ちで
お見合い場所のソファーに座っていた
仲人さんが案内して歩いてきたその先に
ももさんがいた
欲しいスーツと引き換えに
お見合いをさせられたももさんは
つつじいろのスーツを着ていた
初めまして
ももさん
とても素敵なスーツで
お似合いですね
素敵です
かわいらしい人だ・・・
僕はそう言った
ももさんは笑ってみせて
それからお礼を言った
ふたりの時間になって
話が弾んだので
すっかり僕は
結婚するつもりになって
伯父がね
産婦人科を開業しているんです
知っています?
あそこの・・・
ももさんもそこで出産すればいいですから
安心してください
そう言った
ももさんは
クスリと笑っていた
帰る時になって
急に小雨が降り出したので
ももさんに傘を手渡した
それから
帰ろうとしたももさんの後ろ姿に向かって
思わず僕は大声で叫んだ
また
絶対に会ってくださいね
傘は返さなくていいですから
お気になさらず
いえ
ちょっと待って
絶対に会って
傘を返してください!
絶対ですから!
ももさんは笑いながら
遠くでお辞儀をして
そして
見えなくなった
それっきり僕は
ももさんに会うことはなかった
つつじが咲く頃の
小雨が降り始めた夕暮れ時
忘れられない思いがそこにあった
階段をのぼろうとしたら
いつの間にか
のぼれなくなっていて
足が動かなかった
身も心も
何か大きなものに
押しつぶされていた
足を無理に動かして
のぼって
電車に駆け込んだ
それから
吊革にかけた手に
頭をのせて
左右に
ぐらぐら
ぐらぐらとゆれた
その後
人と笑顔で会話をしていたら
何度も発作が起きた
それでも
お茶を飲んで
楽しくて
会話を続けていたら
帰りに歩けなくなった
体の様子がいつもと違って
どこかがおかしくて
息苦しくて
歩くことができなくなった
だけれども
傘を杖にして
どんどん歩いた
この道は険しすぎる
それでもわたしは
誰かのために
どんどん
どんどん歩いた
助けても言わずに
何度も発作を起こしながら
これくらいなら吸入しなくてもいいだろうと
思っていた
そんな時夢を見た
青空の彼が目の前にいた
そばに座っているだけで
何の問題もなく思えて
とても幸せだった
生きていなくちゃ
生きていて
彼に会わなくちゃ
そう思って目が覚めた
自分は何のために生きているのだろう・・・
とか
存在意義がわからない・・・
という人がいるけれど
私は
思いっきり
誰かを愛して
誰かに愛されるために生まれてきたと思っている
なんだか
単純なのだけれどね
保護者会が終わって外に出ようとした時
雨がザーザーと降っていた
わぁ 傘持ってきていないんだけど
空を見上げながら私は思わず叫んだ
するとボンと大きな音がして
大きな傘が表れた
隣を見ると
笑顔で傘を持って立っている人がいた
ありがとうございます・・・
感激しながら傘に入れてもらった私は
申し訳ないです・・・
そう言いながら
一緒に歩いた
しばらく話しをしていてふと隣を見ると
私だけ傘に入り
傘の持ち主は
ずぶぬれだった
大変だと思って
そちらに傘を押してみたら
押し返された
その人は傘を差し上げます・・・そう言った
結局
大丈夫です 差し上げます を繰り返して
駅まで車で送ってもらうことになり
余計に迷惑をかけてしまった
駅に到着した時
気を付けて帰ってくださいね
笑顔でそう言われ
自宅に帰る時に困るだろうからやはり・・・と
その人は
無理矢理傘を手渡してくれた
私は何度もお礼を言いながら
助手席から降りて
車のドアを閉めた後
手を振った
車が見えなくなってから私は
親切にしてもらったわ・・・と
大きな声で言ってしまった
通行人の人達が
チラリと私を見たので
恥ずかしくなって
顔を赤くしながら
傘に素敵な傘カバーと
クッキーでもそえて
お返ししようと考えて
家路を急いだ
学校の校門でいつも会う守衛さん
毎朝
少し挨拶をするだけで
帰りも会釈くらいで通り過ぎていた
いつも
気を配っていらっしゃる姿が
印象的だったのだけれど
私が守衛さんに
明日卒業です
明日はお会いできませんけれど
ありがとうございました
そうお話しすると
おめでとうございます と
声をかけてくださった
しばらくして
私が帰ろうと校門まで行くと
守衛さんが門を開けて待ってくださっていた
背筋を伸ばした守衛さんは
「頑張りましたね」
大きな声で私にそう言った
私は深々とお辞儀をした後
校門から家に帰るまで
涙が止まらなくて困った
いろいろな人に
頑張りましたね・・・そう言われたけれど
私にとって
一番印象的な
頑張りましたね・・・だった
私の現実を
毎日見てくださっていたひとりのかたからの
優しい励ましだった
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